ニューヨーク特派員報告
第204回

カバ・ノー


なぜか日本ではあまり報道されてないみたいだけど、アメリカで持ちきりの話題がある。トランプが最高裁判事に指名したブレッド・カバノーのスキャンダルである。アメリカ合衆国で最上級の裁判所の判事に就任したばかりのカバノーの若い頃の破廉恥な行為を告発する女性が三人も現れたのである。その中でも、全米にインパクトを与えたのは、現在は心理学博士であるフォード教授。彼女は15歳の時に2つ年上で酔っ払っていたカバさんにベッドで服を脱がされそうになったという証言を公聴会でしたのである。

この模様は、全米のテレビで生放送されトラウマで震えながら話す彼女の姿は衝撃的であった。その後、名誉を傷つけられた怒りで感情的になっているカバさんが無実を訴えたが、その模様はかなり取り乱しており、世論は真実味にかけるという見方の方が多い結果になっている。そしてその必死の姿は一気にコメディアン達の風刺のネタになって大笑いになっている。

政治家や名誉のある地位にある人間は、その反対勢力から過去や現在のスキャンダルをすっぱ抜かれ潰されることは良くある事だ。そして、それらのことを平然と嘘をついて否定し権力の座に居座る現在の日本の総理みたいな奴も良く目にすることだけど、この一件にはいくつか考えさせられるデリケートな問題が含まれている事が興味深い。

もしカバ男が法律を扱う最上級の判事でなければ35年前の10代の愚行があったとしてもここまで問題にはならなかったであろう。しかし、CNNをはじめいくつかのメディアは彼の昔の酒癖の悪さの裏をとっていくつか報道している。しかも、彼は自らの証言でも自分のビール好きは認めている。つまりそういったことがあったであろうという想像は容易にできるわけだ。よく調子のいい酒好きが、酔っ払った勢いで発言ことや、やった事をはっきり覚えていないことはよくある。

そしてこの問題は、1年前、ハリウッドのプロデューサー、ワインスタインに対するセクハラ告発に端を発した『#MeToo』運動の燻りにも再び火をつけた。誰でもある可能性のある若気の至りなのだからいいだろうという態度は、市民として実名を晒した勇気ある彼女の告発をないがしろにするような行為になる。FBIの調査もしっかり報告せずに、この男の就任を急いだ共和党のイメージはさらに悪くなった。ちなみにこの告発により、誹謗中傷のリスクにあるフォード教授は、自主的な募金活動によって彼女の身辺を保護されている。

我が母校のブルックリン大学では教授が、カバノーの件を擁護するように、「高校時代に性暴行をすることは男になるための過程」とブログに書いたことが物議を醸し出し、同大学内で抗議集会が開かれた。ひと昔前のエロオヤジの美学は炎上の燃料と化したわけだ。抑圧されてきた社会的弱者としての女性は今、大きな転換期にさしかかっている。「ちょっと強引くらいが男らしい」みたいな考え方はちゃんとTPOを踏まえないとそういうことになる。

共和党は保守派であるカバノーを判事にしようと手続きを急いだ。これによく似た話はトランプにもあった。選挙直前には「自分は誰とでも一発できる」と自慢しているテープを公開されその女性蔑視ぶりを晒されても当選し、数人いた愛人にもお金で口封じしているという報道もされているが、一定数の支持者のおかげで未だ権力の座にいる。これは道徳的に下劣な人間でも自分が同意する政策を推し進める政権なら支持するという一定層がいるということである。彼らは同性愛や妊娠中絶に対して否定的な意見を支持している。このノリは日本の現在の政権与党を取り巻く状態にもダブって見える。

この一件を機に流れ変わった。この11月の中間選挙で前回の悪夢のような大統領選の結果をひっくり返すような事が起こるよう期待してやまない。

もくのあきおは、電子音響音楽の作曲をしつつ、ノイズバンドなどでも活動している。

www.akiomokuno.com

copyright