ニューヨーク特派員報告
第86回

ミニマリスト達の宴


先月に引き続き、貴重な夏の屋外娯楽生活を満喫するが如く、ライブに足を運んだ僕。夏の間に10曲完成させるというハードルの高い目標をたててはいたもののエアコンの故障によりスタジオはシャットダウン。頓挫。まったくはかどらないその状況も、外出に拍車をかけたのであった。しかし、クリティカルな視点で、観賞することは、おおいに創作活動の肥になるものだ。

8月15日、金曜の夜。リース・チャザムによる200本のエレキギターを用いた楽曲と、アシュラテンプル(クラウトロック)のマニュエル・ゲッチングとの共演をリンカーンセンターに観に行った。8月8日に、ロスとNYで88人のドラマーが演奏するというボ?ダムスによる企画に続き、頭数の多い催し物。演奏者数200人のユニゾンから得られる壮大なレゾナンスに期待は膨らむのであった。

チャザム氏は、ノーウェーブシーンのなかでも影響の強い存在で、ミニマル系で実験的な作曲家だ。大人数のギタリストによるオーケストレーションというところが、ソニックユースの師匠であるグレン・ブランカのアプローチに通じるものが感じられる。一方、ゲッチング氏は、10代でサイケバンドをドイツで結成し、LSD博士のティモシー・リアリーをボーカルに迎えてアルバムを作成したり、ギターの重ね録りによる反復モノをやったり、ということを70年代にしていた。その後、ソロになってからの作品『E2?E4』(’85)は、クラブシーンでかけるDJが最近になってデトロイト経由で増えたらしく、テクノやハウスへの多大なる影響を感じさせる。今回は、初のNY公演。

実はその日、午後にいきなりのゲリラ豪雨。開演30分前に、会場であるリンカーンセンターの前で、友人と待ち合わせ、シトシト雨の中、不安げであった。開演時間になっても、降り止まない雨の中、西側に覗く青空に希望を抱いていると、なんとかコンサートが始まった。まずオープニングは、12世紀の作曲家ペロタンの作品だ。バッハよりも500年古いその音楽は、もちろん声楽。訓練された一流の歌声は美しく、ぱらつく小雨の粒子をも共鳴させているかのようであった。12音平均律以前の旋律は何処かケルト音楽を彷彿させた。テノールのドローンの上で、華麗に踊る様な女性の歌声が印象的であった。資料が残っている中では、最古のミニマリストということを考慮にいれると、実に洗練された演出。

雨はまだシトシト。会場の周りをぐるっと囲んでいる200あるギターアンプには、覆いがかぶされていた。はみ出したコンセントが濡れていて危なげ。アナウンスは、とりあえずゴッチング氏の演奏を先に持ってくる事を告げた。ばったり合流した音楽評論家の友人がビールをくれて、テンションもあがる。ライトショーはヒッピー世代には、よく知られているジョシュア・ホワイト。かつての様な油の上に色彩を滲ませるものではなく、幾つかのライブカメラと回転したりとかするグラフィックとのミックス。曲はもちろん『E2?E4』、たっぷり1時間ある曲だ。スローな4つ打ちビートの上、2つのコードを往復する反復のレイヤーの中、いろんなモードを織り込むカラフルな世界。小雨もあがった演奏途中、トイレの帰りに赤ワインを冷たくなった身体に注ぎ込む。そして、ビートに身を任せくねくね踊り、寒さをしのいだ。延々と続く2コード。反復は、繰り返し続ける行為の中から一種の幻覚を生じさせる。フェイドアウトしていくエンディングのもたらした感動は、日曜の昼間に幕を閉じる狂気のダンスパーティのものと似ていた。

そのあと、予想通りではあったが、悲しい知らせが場内にこだました。水にぬれたコンセントで、膨大な電力を消費するアンプを使用することは非常に危険と判断され、チャザム氏の公演は中止となってしまったのである。ステージ上で、詫びを入れる氏を片目に、200人のギタリスト達は、それぞれのアンプを片付けはじめた。全く音を出さずに終わってしまうなんて、究極のミニマリズム?!しかし、観賞に来た我々以上に、残念なのは彼ら当事者達だろうと思うと、じつに気の毒であった。かくして、壮大なレゾナンスは、いまだ僕の想像の世界の枠をこえてはいない。

全くの余談であるが、雨上がりの下がった気温は、濡れたからだを冷やすので、仲間でその後、メシを食べにいった。そんな著名なアーティストのコンサートの観客だから、もちろん平均年齢は高い。体を暖めるため、すかさず熱燗で乾杯し、世間話に花咲か爺さん達。約1名、ワシントンからきていたDJは、翌朝のアポイントに間に合わせるため、早めに更けた。しかし、最終のバスも電車も満席だったため、タクシーで帰ったらしい。日本で言えば、名古屋から東京までの距離に等しい。無料コンサートであったが、DCからわざわざ駆けつけた彼にとっては、随分と高いモノとなってしまったようだ。

モクノアキオの大学生生活(録音エンジニア)も余すとこ1年になり、モラトリアム状態に終止符を打つ日を予感しつつ、ノイズ、エレクトロなどのバンド活動も地味につづけている。

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