第13回 見知らぬ街の景色が香代子の不安を煽った。平日なのに街は人で埋めつくされている。沈み込みそうになりながら、なんとか目的地までたどり着いた。ライブハウスの看板を確認して香代子は途中で買った缶ジュースの栓を開けた。リハーサルの音が漏れてくる。聴き馴染んだメロディーこの扉の向こうに確かにユタカがいる。そう実感した途端に鼓動が早くなる。 もうすぐ、ユタカに会える。懐かしいユタカの声に耳を傾けながら、香代子はライブハウスの前の階段に腰掛けた。こうしていると初めて会った時のことを思い出す。あの時も扉の前で自分はこうして待っていた。あれからもう一年が経っているなんて。怒涛のような日々だった。それも、もう終わる。終わらせるために自分はここに来たのだから。 背後で扉の開く気配がして振り返る焦りで缶が手から転がり落ちる。そこには女社長の冷たい表情があった。香代子は立ち上がって後退する。その様子を見て女社長が笑った。嘲笑のように香代子の目には映った。 「お久しぶりね。」 香代子は最後に見た女社長の取り乱した姿と今の様子の違いに戸惑った。 「こんなところまでくるなんてね。それで、いったいどうしたいの?」 尋ねられて、困った。自分はどうしたくて来たのだろう。わかっていることは一つだけだった。答えが欲しかった。決着をつけたかった。望みなんてない。 「彼に、会いに……。」 それだけだった。女社長は薄く笑ってスーツの胸ポケットからパスを取り出して香代子に差し出した。 「あげる。」 彼女の意図がわからずに、香代子は顔をしかめた。ただ差し出されたステージパスに視線を注ぐしかなかった。 「別に親切でやってるわけじゃないのよ。ユタカこっちに来て変わったわ。何かに憑かれているみたい。私ももう疲れたわ。引導渡すなら早くして。」 その言葉は本心からのようだった。香代子は無言で頷いてそれを受け取り、ジーンズの膝に貼った。最後に女社長に視線を合わせて笑ってみせた。 両手で扉を押し開ける。リハーサルを終わったユタカたちが楽器を片付けながら談笑している。メンバーの一人が香代子に気付いてユタカの腕を軽く叩く。ユタカがこちらを振り返る。どんな顔をするだろう。ずっと想像を膨らませていた、のに、ユタカは微塵も表情を崩さないで自分の方にやって来た。違う。もうその時点で違っていた。 「何しに来たの?」 冷たい声だった。 「会いたくて……。」 恐る恐る言った言葉にユタカが返したのは、 「俺は会いたくなかった。」 何より残酷な一言だった。 |