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さぼり上手な俺は、パンクは個人練習なんかしてはいけないと都合の良いポリシーをかかげ、気がつけば1人だけ下手くそだった。後からベースを始めた1学年下の岡本や中谷より下手くそだった。そこで一念発起して猛烈に練習を始めるような性格ではなかったし、年下より下手くそなのはカッコ悪いという理由でベースと、ついでにバンドもやめて受験勉強を始めつつ、悶々としているのだった。 そんなとき植中がボーカルをやらないかと誘って来た。人前で歌うなど論外と即座に断ろうとした俺の頭によぎった記憶。小学校の歌のテストで1人ずつ『とんび』を歌わされたとき?緊張して声が震えた事が偶然にもビブラート唱法となり、歌い終わったとたんのみんなのホーというため息。先生のほめ言葉。練習しなくても人前に立て、運が良ければ感心してもらえる歌というパートは盲点だった。即座に引き受けた。 それが俺と歌とのテキトーな出会い。まさか一生歌う事になるとは思わなかったがそうなった。いつの間にか俺の方が歌につかまったんだろう。今では自分のいわゆる持ち歌もたくさんある。ちょっとビックリだ。3-10chainで現在進行で歌う事とも、アンジーでアンジーの歌を歌う事とも違う、「歌につかまってしまった男」のライブをやる。いわゆる持ち歌から選んで歌うけど、『とんび』を歌ったときのようにホーとため息をついてもらえる事が理想。それだけ。 <水戸華之介>
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