ニューヨーク特派員報告
第34回

居酒屋考


最近、とっても興奮しうきうきしているのは、家から2ブロック先のセントマークスに建築中だった気になっていた大衆居酒屋がオープンしたからだ。僕は居酒屋が大好きで、今池に住んでいた時代も下北沢に住んでいた時も、よく栄養をとりにいったものだった。居酒屋の良さは何より、その値段の安さと、気軽さだ。

セントマークスは、日本人とパンクスの多い地帯で、日本食屋と、パンク屋が交互にならんでいるちょっと変わった通りで、最近は、日本勢が優位で、とうとう、こんな所に大衆居酒屋をおっ建てた。その名は『ケンカ』。まるで、工事現場のごとく夜、2ブロック先からでもわかるくらい煌々とライトアップされたその店先には、赤く光った目玉の巨大なタヌキがそびえたっている。

アメリカ人のサケの飲み方は、まるで我々、日本人とはまったく違う。彼等は、サケを呑むのに、つまみを食べない。バーにいっても、飲み物のみしかなく、ひたすらくぃっくぃっと呑むのである。そしてどのバーにも、ビリヤードと、ピンボールとジュークボックスがあって、ガンガン音楽が流れる中、大声で話をする。今は、中ではタバコは吸えないので、ストリートにでて、一服する。

僕は、25年間、日本に住んでいたので、こんなアメリカンなサケの飲み方に、何か満たされないものを感じていた。血液中に、一定の醤油濃度を保っておかないと、精神が不安定になってしまうアジア舌は、イタリアンや、ポーリッシュに満足できるわけもなく、しかし、日本食は値段が高く、気軽に食べに行けず、結局、中華にばかりお世話になっていた。しかし、チャイナタウンは歩いて行くには、少し遠すぎる。兼ねてから、歩いていける範囲で、かるく、5、6ドルくらいですませられる定食屋でも、できぬものかと切望していた矢先の出来事であった。

アフガニスタンレストランの向いにある『ケンカ』は、入り口の横にでかでかと書かれたメニューにまず気が止まる。焼酎350円、オロナミンC200円、枝豆100円、焼き鳥350円、お子さまランチ500円、宴会3000円より、などと、日本語でしか書いていなく、しかも円?しかし、その値段は、恐ろしくお手ごろで、マンハッタン価格のおよそ60%くらいだ。

驚くのは、そのチープさだけでは無い。店内の凝り方も普通ではない。入り口は、いきなり横にスライドして開くガラス張りの自動ドア。店内は、無数にぶらさがる蛍光灯で、そのだだっぴろいホールの奥に描かれた銭湯にあるような立派な富士山がハッキリ見える。入ってすぐ左にあるカウンターの中が、キッチンになって女の子が焼き鳥してたりする。見た限り、日本人のスタッフばかりの様だ。奥には、何やら懐かしい石のブロックの壁があって、『立ち小便禁止』のふだと、店員をモチーフにした立候補者のポスターがはってあり、その後ろにあるトイレもすべて、青色の小さめのタイルばりの懐かしい内装だ。昔、中学校の体育館などで見かけられたメガフォン型のスピーカーからは、田原俊彦、軍艦マーチや水戸黄門などが、中音域でながれている。
テレビで見たことがある『昭和レトロ』な店内のテーブルは丸太を半分に割ったようなどっしり感がある。

キリンのジョッキビールも1杯たったの1ドル50セントで、枝豆のおとうしまでついてくる。オニオンスライスも御家庭の味だし、焼き鳥も4本もついていて、タレも美味しい。酒もコップを持ってきてくれて目の前でなみなみ注いでくれるスタイル。カラアゲ定食など4ドル50で、小鉢にキャベツの千切りもついている。20ドルもあれば、栄養のバランスのとれた食事ができる。見渡す限り、客の9割は日本人で、ほとんど知らない人達ばかりで、まるで日本にいるような錯角に陥る場所だ。

文化が平行して共存しているアメリカ。クイーンズへいけば、ハングル文字だけ、ブライトンビーチへ行けばロシア語だけでしか書いていない看板があるように、『ケンカ』もとうとうその排他的ともとられかねないアティテュードを看板にした。今後も、この価格の維持を心より期待している。 旧ELLの並びにある(あった?)『木の実』という居酒屋の旦那さんが亡くなられたと聞いた。合掌。昔、ライブの後の『打ち上げ』でよくお世話になった。とても美味しい家庭料理の味のおつまみで、おくの座敷で、バンド仲間とロックや、今後の展開や、馬鹿話などして盛り上がったものであった。居酒屋は、素晴らしい。


モクノアキオは、前衛ロックバンド『エレクトロプータス』のベースボーカル。去年の9月からブルックリンのジャンクヤードスタジオで新作のレコーディングに励んでいる。ソーシャルレジストリーより発売予定。次期大統領には、JBのマネージャーの経験もあるアルシャープトンに1票入れたい。http://www.spiraloop.com

copyright