ニューヨーク特派員報告
第83回

一夜のライブ見聞録


ここんとこの季節の変わり目の突然度には、驚かされる。春は無かった。暖かな冬の後に、涼しい夏がきた。セメスターが終わって、目が回るくらい神経が衰弱した多忙さを癒し、とてもフレッシュに体調をリセットすることができた。同期の学友は沢山、卒業していった。僕は、もう1年学校に残る道を選んだ。まだまだ僕個人のプロジェクトとしてのやる事がある。

なんの予定も入ってない日があるってことは、実に贅沢で幸せな事だ。なにかにせかされる事無く、ゆっくりと自分と向き合うことができる。例えば、人の少ない昼間のプールで、あくまで自分のペースでクロールしたり、チャリンコでワシントン橋を超えて、ニュージャージーの住宅街をタラタラサイクリングしたり、ハドソン川沿いの道をプラプラしたりしながらアイデアを考えてみたりする。そういった変化の微妙なリニアーな運動は、考え事をするのに適していると思う。時間に余裕が無ければできないことだ。

汗を流した後はシャワーを浴びて、ちょいと身繕いをしたら、夜の街へと繰り出すのである。イーストリバー越しにパークスロープを臨む事が出来るサウスシーポートに常設されている野外ステージに、初期パンク/ポストパンクで知れたバンド、ワイヤーのコンサート観にいった。言わずとも会場の平均年齢は高く、非常に居心地が良い。ここんとこつるんでるオルタナギャルズと現地で会おうとしたが、あまりの人だかりに探すのが困難になり、かわりにオルタナオヤジズと遭遇したので、一緒に観賞していた。川から吹いてくる風がちょっとだけ冷たい。複雑に入り組んだ模様の曇り空が、8分打ちのベースとギャインギャインするギターの音によくマッチしていた。

ワイヤーは、1977年にイギリスで結成されたバンドで、その後のパンク系のバンドに影響力がある。僕もアルバムは持っているけど、これといって思い出すことの出来る曲が実はなかった。朧げに、曲のタイトルが難解だったことは思い出す。この日に演奏された曲は、超シンプルであった。AとBの2パターン、もしくは、ワンコードで構成されているものが多く、1曲3、4分程度の長さ。サビみたく盛り上がる部分がある曲もあまり無く、ギターソロは皆無。エンディングは全曲ウタとともにスパっと終わる。実に無駄が無く、潔い彼ら独特の楽曲形式だ。恐らく、僕が彼らの曲を思い出せないの原因は、ポップミュージックによく見られる執拗なまでのリフレインを意図的にしていない。そんなパンク以降にみられた、こういった方法論的アプローチを目の当たりにすると、やはり感動する。

ライブ後は、おちあった中年男3人、徒歩で中華街へ繰り出し、プリプリの雲呑と卵の細麺をすすった。昔は、近所だったアロハシャツ着たオッチャン達の働くこの「ワンタンガーデン」もいまは、わざわざ出向かねば来れない場所。醤油味の汁の一滴まで味わった後、某有名写真家に招待してもらった、深夜12時過ぎに始まるもうひとつのライブへと足を運んだ。

今や、バブリーな繁華街となったミートパッキングエリアのホテルの地下にある、アメリカンな和風って感じのクラブ。店内には無数の提灯がぶら下がっていて、盛り上がってくるとそれが点滅する。ハノイロックスやニューヨークドールズでベースをひいている、サミーが参加しているバンドのライブ。ボーカルはデザイナーのトミー・フィルフィガーの弟のマイケルで、ギターとドラムはガンズアンドローゼズのメンバーという、何ともロックンロールなメンツであった。ファッション関係の人間が絡んでる事もあり、オーディエンスはモデルの姉さん達が多かった。

某写真家は、僕を楽屋に誘ってくれて、そこでサミー氏を紹介してもらった。10代の頃夢中になったハノイのメンバーには少し白髪があった。気さくに少しだけ僕の話し相手になってくれた。楽屋には沢山アルコールがあって、名前は知らないけどグラビアで見た事のあるお姉さんとか何人かいた。ロックスターは既にハイになっていた。ライブは最初っから最後まで、ギンギンだった。ロバートプラントばりのシャウトはなかなか絶品、ギタリストは大車輪奏法しまくるけど演奏は完璧、ドラムは皮がはちけんばかりのラウドさで叩きまくっていた。もちろんサミーは、あの伝説のマーキークラブでの演奏の時と同じクールさでベースを弾いていた。最後に演奏した曲は、イギーポップ(ストゥージーズ)の「サーチ&デストロイ」。思わず軽くヘッドバッキングしてしまったけど、最初は踊ってたモデルさん達は、あまりのハイパーなステージに途中で疲れてしまったようであった。最近のヤングの心には、往年のロックサウンドは響かないのであろうか??

この夜観た2つのバンドは、僕が10代だった80年代に活躍していたバンド。スタイル的には、対照的な感じだけど、それぞれがその後のバンドに与えた影響は少なくない。最近もどんどん面白い音を出すバンドが増えて来ているけど、ルーツをたどっていった先にあるスピリットに触れると、やっぱり初心にかえる。ロックって「破壊と創造」みたいな要素って欠かせないよね。

モクノアキオは、シティカレッジのソニックアーツのプログラムをほぼ終了。その知識が忘れ去られる前に、創作活動の殻に閉じこもる予定だ。www.myspace.com/spiraloop

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