「ベッドバグ」 |
つかの間の夏は、虫の脅威とともに過ぎていった。まさかのトコジラミが僕の寝床から発見されたのだ。英語ではベッドバグと言う。噂は聞いたことがあったが、まさかこんなに近くに居たなんてショック。そもそもそいつは、数ヶ月前から見覚えがあったけど、よくわからなかったから殺さなかった。最近妙にシーツに血のシミができるから不思議に思っていて、もしやと思い検索し、その恐るべき正体を知ったのである。刺された後もなく痒みを感じなかったから気づかなかったのだ 。 ベッドをひっくり返したときに数十匹くらい固まってうごめいていたトコジラミを発見した時は発狂しそうになった。すぐさまそのシーツをゴミ袋にぶち込み、ベッドも部屋から引きずりだして捨てた。その後すぐに出勤せねばならなかったので、そこまでやってから仕事にいったが、そこでいろいろその忌まわしい虫の生態を検索するにつれ、気が気でなくなり事情は話し仕事を早退した。その話を耳にした同僚達は表情が変わりさっと後退りした。それほど恐ろしい存在なのである。 ここで少しその生態について触れるが、虫アレルギーの方はこの段落を飛ばすことをおすすめする。まず奴らは生き物の血を吸って成長する。そして繁殖力が強いようだ。メスは2〜5個の卵を産み生涯で数百個になるという。成虫はゴマよりひと回り大きいくらいで平べったく、潰すと血が吹き出す。飢餓に強いらしく18ヶ月血を吸わなくても生き続ける奴もいるという。狭い隙間などに巣をつくり夜中になるとモゾモゾと餌を求めてベッドにやってくるのだ。おえーっ。なんとおぞましい。 現実と向き合い奴らと戦わねばならない。そのためにはその生態を知る必要があり検索しまくったが、そのたびにあのおぞましい写真がウエブページに登場し、それを目にすると刺されていないのに体中が痒くなるパラノイド状態に陥るのである。この話を人にするとなぜが無意識に腕や足を掻き掻きしはじめる。発見から2日目に奴が僕のメガネを歩いていた時には泡を吹いて失神しそうになった。すぐさま服を全部脱いで、隅々まで検査し、みつからなかったので鞄をみたら中に2匹いたのだ(寒)。すぐさまその鞄をゴミ箱に捨て、その存在の恐怖に怯え、真剣な対策をとりはじめた。 まずは部屋に安全地帯をつくった。新たに寝床としたソファーは隅々までチェックし、壁から離して置いた。奴らは這うことしかできないので、そのソファーの周りに奴らの嫌いな珪藻土でぐるりと取り囲み入ってこられないようにした。そしてクローゼットの服は全部クリーニングにだし、引き出しの服は全部洗濯し、乾燥機にかけた(奴らは熱に弱いのだ)。それらの服はすべてポリ袋にいれて蓋をした。棚や収納スペースにある本や小物も全部ポリ袋に入れ、万が一奴らが潜んでいても出てこられないようにした。 そして害虫駆除業者が来て殺虫剤を家中にまいた。棚や押入れのものはすべて部屋の真ん中にだして、隅々まで薬をまいていった。しかし、これで終わりではなく、3週間後にもう一度、殺虫剤をまきにくる。なぜならその薬は卵にはきかないから、孵化してきた奴をもう一度駆除するためである。ザップバグという熱風で奴らを退治する器具も購入した。熱処理すれば、本も小物も安心して棚にもどせる。 このように、トコジラミは一度、発生すると退治するのに非常に手間がかかる。どこに潜んでいるか見つけにくいので、それこそ虱潰しにしていかねばまた再発しかねないのだ。なんとも、厄介な害虫である。ニューヨークでは最近、地下鉄やバスで発見されたというニュースを見る。数年前にはアバクロやビクトリアズ・シークレットでも発見されしばらく営業できなかったこともある。一体どういった経路で我が家に侵入してきたか知らぬが、早く元の生活にもどりたいものである。 もくのあきおは、ニューヨーク市立大学大学院で電子音響音楽の作曲を勉強しながら、ノイズバンドなどで活動している。 |
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