好評エッセイ
LEMONADE KEIの初めての×××

第21回

 寒すぎる。世間の風が冷たいのは知っていたが、いつの間に冬になってしまったのか。つい先月までアホの様に自転車を乗り回していたというのに。
 考えてみれば、もう12月である。寒くて当然なのだが、なんか急すぎないか?夏から突然冬になったみたいではないか。つまり今年は飽きの来ない一年だったという訳だ。
 ……オヤ、雪がほら。震えているじゃないか。もっとこっちにお寄り。この寒さにこのダジャレ、そりゃ雪も降るよね(ここで笑顔)。
 このように、普段冴え渡るギャグのキレもイマイチだ。正直なところ、冬は冬眠したい。大好きなCDと、ムンムンの女子を連れて。僕はきっと変温動物なのだ。母親が一度きりの過ちで、トカゲと作った子なのだ。リザードキングだ(↑ちょっとカッコイイ)。

 とは云え、寝つきのいいはずのデビルマンが闘いの夜は眠れぬように、11月の、しかも雪降る夜生まれの僕が寒さに弱いのにもワケがある。
 その朝の冷え込みは格別だった。しかし、子供は風の子であった僕は、アミダばばあの真似かなんかしながら、元気に小学校へ向かった。何の変哲もない普通の一日のハズであった。
 それは、寒さもいくらか安らいできた昼休みの事。特に仲が良かった訳でもない女子の一人が、

「ケイ君、今日遊ぼうよ。」

 と誘ってきた。僕は、慕ってくる者を可愛がる親分肌の江戸ッ子気質なので、「可愛い奴め」等と思いながら、約束を交わした。
 夕方になると、再び冷え込み始め、おまけに雨まで降ってきた。意地悪な天気に舌打ちしながらも、僕は約束の場所へ向かった。
 「時間、間違えたかな」そう思い始めたのは、約束の時間をとうに過ぎてからだった。辺りはもう薄暗く、雨で視界も悪い。少し心配にもなり、なによりこのままでは傘子地蔵になってしまうので、彼女の家に電話をしてみる。

 「もしもし」

 彼女はまだご在宅だ。

 「あのさ、約束って5時じゃなかったっけ?」
 「あっゴメーン、寒かったから。」

 雨に濡れ、寒さに打ち震える僕の耳に彼女の声。その凄まじい衝撃の事実に、僕のアゴは外れ、ジャイアント馬場の様に長くなった。アポ−。

 「寒かったから」

 未だかつて、これほど明確で男らしいスッポカシの理由があっただろうか。いや、ない。あえて断言するが、多分ない。
 僕は彼女の、その男っぷりに涙し、黙って電話を切った。
 それから何回もの冬を越してきたが、僕の顔が少年時代の丸顔に戻る事はなかった。

 「……さあ、お話はもう終わりだ。寝た、寝た。」

 そう言って、トカゲのお兄さんは冬眠の準備を始めたとさ。