好評連載
しゃちの部屋第38回

 先日「プロレス」というものを観に行って来ました。僕のミュージシャンの友達に「バカ」が付く程のプロレス好きがいて、(ここでは「F氏」としておこう)今までにも何度か、「チケットが余っている」という理由で誘われて、「たまにはイイかなぁ」くらいの気持ちで観に行ったことはありました。その時はレスラーの名前も知らないし、そもそもプロレスの醍醐味すら解らないまま観ていたので、なんとなく会場の雰囲気を楽しむ程度でした。でもそんな中にも自分なりに、「カッコイイ」と思えるレスラーが何人かできて(F氏に仕込まれた知識でもあるが)、今回僕が好きになったその何人かのレスラーのうちの二人が対戦するという、僕にとっては珍しく興味をそそられる試合(またもやF氏に仕込まれた知識でもあるが)があったので、今回はそれを目的として、自分の足で(もちろんF氏も一緒に)会場に行きました。考えてみれば、ここ最近の僕の生活で音楽を離れて外出をしたり、ライブ以外の目的でホールに足を運ぶことなんてしばらくなかったので、自分の中の世界以外のものから刺激を受けることに飢えていたのかもしれません。やっぱり自分から楽しもうという気持ちがあるとないとではたとえ同じものを観ていても全然違いますね。

 結論から言わせてもらうと、こんなにプロレスが面白いものだとは思いませんでした。全ての試合が終わって帰る途中、観ていた2〜3時間の間ずっと夢中になっていた自分がいたことに気付きました。これ程までに我を忘れられる時間というものは、最近では自分がステージに上がっている時ぐらいですからね。

 プロレスはボクシング等と違って知らない人同士が戦うのではなくて、同じ団体の中の、同じ顔ぶれの中で対戦するものです。そこには因縁や友好というドラマがあって、F氏は「そこがプロレスの面白いところだ!」と言っていました。そして会場のファンは試合が終わると泣きます。(F氏も泣きます)以前僕はそれが不思議でした。プロレスを観に来ている人達は僕から見ると極々普通の人が多いです。サラリーマンや学生、女性もけっこういて、どう見ても会社帰りのOLがひとりで来ている人もいました。そんな人達が始まる前はおとなしくしていたのに、お目当ての試合が始まった途端、レスラーの名前を叫んだり、熱くなってくると「やっちまえ、コノヤロー!」なんていう言葉も出てきます。そして最後は、負ければ悔し泣きで、勝てば「アリガトー!」って泣いて。傍らから見ていつも「異様な光景だなぁ」なんて思っていました。でも今回はその気持ちが僕にも分かった気がしました。それは僕が観たかった試合で、以前は中の良かったレスラーが今は対立関係にあって、その試合でより対立を深めてしまう結果になってしまったからです。勝ち負けの結果より、「この先どうなってしまうのだろう」という少し気持ちの悪さが残りました。たぶんこの「この先どうなって…」という気持ちが僕を夢中にさせるものだったのでしょう。

 プロレスはよく「八百長だ!」なんて言われるけど、たとえこの筋書きが台本通りだったとしても「行く末はこの目で観たい!」と思っている僕はもう立派なプロレスファンになってしまったのでしょうか?これからもプロレス連れてってね、F氏。

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